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経営理論まとめ(組織の経済学)

何冊か経営学の書籍を読んだのでまとめていく。

経営理論のまとめ記事一覧

主に世界標準の経営理論を元にする。

企業・組織の経済学

企業・組織における経済学として、主に3つの理論が存在する。

  • 情報の経済学
  • エージェンシー理論
  • TCE(取引費用理論)

これらは古典的な経済学にはなかった事象を取り込んだものと言える。
組織、個人による取引、やり取りにおける「情報の非対称性」をとりこんだものが「情報の経済学」「エージェンシー理論」であり、「限定された合理性」を取り込んだものがTCEである。

情報の経済学

「情報の経済学」「エージェンシー理論」はどちらも「情報の非対称性」を取り込んだものとしたが、この2つの違いは、取引前に生じる情報の非対称性を論じるか、取引成立後に生じる情報の非対称性を論じるかの違いである。

アカロフのレモン市場とアドバース・セレクション

取引前における情報の非対称性の例として、アカロフのレモン市場(単にレモン市場とも)がある。レモンとはアメリカの俗語で室の悪い中古車(レモンカー)を意味する。ちなみに、レモン(粗悪品)の対照として、良品をピーチと呼ぶ。

(ジョージ・)アカロフは、アメリカの経済学者であり、2001年のノーベル経済学受賞者である。

アカロフのレモン(中古車)市場について、簡単な例を示す。

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正直なセールスマンと虚偽表示をするセールスマンがいたとすると、上記のように虚偽表示をするセールスマンのほうが市場で生き残りやすくなってしまう。このような良質なものが淘汰されてしまう事象をアドバース・セレクション(逆淘汰・逆選択という。

アドバース・セレクションの回避方法

一般的なアドバース・セレクションの回避方法は2つ存在する。それが、スクリーニングとシグナリングである。

スクリーニング

スクリーニングは、私的情報を持っていない(相手のみが私的情報を持っている)場合の対処法である。

例えば、保険会社が「高額だが補償額も高い保険」と「低額だが補償額も低い保険」を用意するといったことが挙げられる。保険の加入者は、自分のリスクが高いと判断すれば自然に高額な保険を選ぶし、リスクが低いと判断すれば低額な保険を選ぶ。リスクの高い加入者からは高額の保険料を受け取りつつ、後者も取りこぼさないで済むのである。

シグナリング

シグナリングは、私的情報を持っているが、他に虚偽情報を提示するプレイヤーがいるために、相手に信用してもらえない場合の対処法である。

私的情報が信用してもらえない理由として、理解されにくい情報であることが挙げられる。そこで、わかりやすいシグナルを提示するということが対処法となる。

例えば、就活市場での学歴や資格、企業における認証取得などである。

エージェンシー理論

エージェンシー理論はプリンシパル=エージェント理論とも呼ばれる。

経済主体(プリンシパル)が特定の活動に対して代理人(エージェント)に依頼し、代わりに行動してもらう。その際に、プリンシパルとエージェント間の利害・関心の乖離(目的の不一致)、行動の把握・監視ができないこと(情報の非対称性)により、エージェントがプリンシパルにとって不利益な行動を取ることがある。これをモラルハザード(またはエージェンシー問題と呼び、このメカニズムと対処法を考えるのがエージェンシー理論の主目的である。

例えば、管理職と部下の場合を考えよう。管理職はプリンシパルで、部下がエージェントである。

管理職は部下に目標達成のために一生懸命働いてほしい。逆に部下は問題にならない限り、手を抜きたいと考える(目的の不一致)。また、管理職が部下の行動を把握し切ることは難しい(情報の非対称性)。

このような問題は精神論的な問題や、倫理観の問題に帰着しがちだが、エージェンシー理論では、「目的の不一致」「情報の非対称性」を解消することで解決することを考える。

モニタリング

モニタリングは、プリンシパルがエージェントを監視する仕組みを取り入れることで「情報の非対称性」を解消を目指す。

例えば、検査部門による抜き打ちチェックや、業務内容の報告がそれに当たる。

ただし、モニタリングも万能ではなく、コストの増加や、モニタリングする側が適切に選択されず機能しないなどが起こりうる。

インセンティブ

インセンティブは、ある条件下でプレイヤーが持つ特定行動への動機づけ・やる気を起こさせるものである。

例えば、業績連動型の報酬、ストックオプションなどが存在する。

ただし、業績連動型の報酬を設定しても、自身の責任ではない理由により業績が不安定になる場合、逆効果になる場合もある。

同族経営のエージェンシー理論での説明

近年の研究により、同族企業は非同族企業よりもROAなどの業績が良いという結果が示されている。またその中でも婿養子が経営者の場合、より業績が高いことが示されている。

これはエージェンシー理論で見ると以下のように説明できる。

① 主要株主(プリンシパル)と経営者(エージェンシー)の目的が一致している
② 経営の失敗によりすぐさま失職するリスクが少ないため、非同族企業に比べリスク回避的でなく、大胆な戦略を打ちやすい

一方で、同族から選ばれる経営者が常に優秀とは限らないが、婿養子として外部の優秀な人材が選択されると、この問題も解決され、業績が高くなると見ることができる。

TCE(取引費用理論)

組織の経済学における、「情報の経済学」「エージェンシー理論」が古典的な経済学に「情報の非対称性」を取り込んでいたのに対し、TCEは「限定された合理性」を取り込む

この「限定された合理性」は、人の意思決定で完全な合理性を持って行うことが難しいことを意味する(たとえば、取引において将来起こることすべてを見越した契約を盛り込むことはできない。これを不完備契約という)。

ホールドアップ問題

TCEにおける主要な問題は、ホールドアップ問題である。

ホールドアップ問題は「一旦行われるともとに戻すのが難しく、しかも交渉相手の強さを増してしまうような投資における問題」である。

例として、自動車メーカーと部品メーカーの関係がある。

自動車メーカーが部品メーカーにおいて、部品メーカーが多額の初期投資を必要とする契約を「今後10年間は他社からは受注しない」という専売契約したとする。その後、想定外の市場変化で自動車メーカーが追加で大量発注を部品メーカーに行ったとする。

ただし、「今後10年間は他社からは受注しない」という条件があれば、契約が続くかぎり大量発注でも部品メーカーは値下げをする理由がない。また、専属契約をした結果としてノウハウは自動車メーカーではなく部品メーカーに蓄積されているため、契約を破棄して他のメーカーを探すことも難しくなってしまう。

これらは以下のような要因による。
① 不測事態の予見困難性
② 取引の不確実性
③ 資産特殊性(ビジネスに不可欠な特殊な資産、技術、ノウハウ、経営資源が存在すること)
④ 機会主義(合理的な意思決定として、相手をだしぬいてでも自分を利する行動を取ろうとする考え)

取引コストと市場vs.企業

取引コストと取引コスト以外のコスト(投資費用、生産コスト、販売費など)はトレードオフの関係にある。

取引コスト以外のコストが高い「一企業による統治」では、取引コストは低下する。一方、海外でのフランチャイズなどの「ライセンシング」では、投資費用などは低く抑えられるものの、取引コストは増加する。

これは、近年のコングロマリット企業の解体、事業分割が進むことの説明にもなる。