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経営理論まとめ(ゲーム理論)

何冊か経営学の書籍を読んだのでまとめていく。

経営理論のまとめ記事一覧

主に世界標準の経営理論を元にする。

ゲーム理論とは

相手の行動を合理的に予測しながら、互いの意思決定・行動の相互依存関係のメカニズムとその帰結を分析するもの
世界標準の経営理論より

ゲーム理論におけるゲームの種類

ゲーム理論の中でもゲームの種類がいくつか考えられるが、それにより結果が異なるため、先にその大きなカテゴリを示す。

協力ゲームと非協力ゲーム

一般的に協力ゲームと非協力ゲームが存在する。
寡占市場(市場戦略に影響を与える企業が少数)の場合、非協力ゲームを考えることが多い(一般的には独禁法などのいわゆる「競争法」により、カルテル等が禁止されているため)ため、今回は非協力ゲームに絞って考える。

協力ゲーム:プレイヤー同士で提携することで利益増加が可能な仕組みを持つゲーム
非協力ゲーム:プレイヤー同士に合意形成をする枠組みがないゲーム

同時ゲームと逐次ゲーム

ゲーム理論では、同時ゲームと逐次ゲームの2種類が存在する。

同時ゲーム:相互の意思決定の結果を知らない状態で、互いに意思決定を行う
逐次ゲーム:相手の意思決定の結果を知った状態で、意思決定を行う

じゃんけんのように相手が出す結果を知らない状態で行うのが同時ゲーム、チェスなどのように相手の手を知った状態で行うのが逐次ゲーム。

数量競争と価格競争

競争の種類によって、異なる結果を生む場合がある。

数量競争:増産や減産といった、数量に対する意思決定を行うゲーム
価格競争:価格を引き下げるかといった、価格に対する意思決定を行うゲーム

1回きりか無限の繰り返しか

ゲーム理論において、結果に影響することとして、1回きりかどうかという点がある。

たとえば、M&Aや大規模事業の参入・撤退の意思決定は、基本的にその1回きりである。
一方で特定の商品の販売市場の価格競争は、1回きりでなく、互いが市場にいる限り無限に続く。

1回きりなら相手に対してその時点で徹底的な勝ちを得るほうが重要になるが、無限に繰り返される場合は相手に勝つことより継続的に利益を得られることが優先されることも多い。

非協力ゲームの種類

上記までの分類を踏まえ、非協力ゲームでの分類を示す

数量競争 価格競争
同時ゲーム クールノー競争 ベルトラン競争
逐次ゲーム 数量競争における逐次ゲーム 価格競争における逐次ゲーム

クールノー競争

クールノー競争は、数量競争の同時ゲームで特徴づけられる競争である。

例. A社とB社の増産・現状維持の戦略

A社、B社がそれぞれ、増産・現状維持を選択した場合に得られる利益を示す。

A社\B社 現状維持 増産
現状維持 A社: 10、B社: 10 A社: 15、B社: 20
増産 A社: 20、B社: 15 A社: 18、B社: 18

このとき、相手の意思決定を互いに知らずに意思決定を行うものとする。

A社は、B社がどちらを選択しても、常に増産のほうが利潤が高い。この場合、A社は合理的な選択として必ず増産を選ぶほうが良い(このような相手の行動によらず選択すべき戦略を支配戦略という)。

B社も同様であるため、互いが合理的な選択をした場合、両者ともに増産を選ぶシナリオが成立する。

このようにして最終的に決まる結果(均衡)のことをナッシュ均衡とよぶ(クールノー競争だけでなく、ゲーム理論全体で使われる)。

ベルトラン競争

ベルトラン競争は、価格競争の同時ゲームで特徴づけられる競争である。

例. A社とB社の価格引き下げ・現状維持の戦略

A社、B社がそれぞれ、価格引き下げ・現状維持を選択した場合に得られる利益を示す。

A社\B社 現状維持 価格引き下げ
現状維持 A社: 10、B社: 10 A社: 5、B社: 18
価格引き下げ A社: 18、B社: 5 A社: 6、B社: 6

このとき、相手の意思決定を互いに知らずに意思決定を行うものとする。

A社は、B社がどちらを選択しても、常に価格引き下げのほうが利潤が高い。この場合、A社は合理的な選択として必ず価格引き下げを選ぶほうが良い。

B社も同様であるため、互いが合理的な選択をした場合、両者ともに価格引き下げを選ぶシナリオが成立する。

ベルトラン競争においてはクールノー競争と異なり、一般的にナッシュ均衡で成立するシナリオにおける互いの利益が低くなる。

これは価格競争の場合の価格引き下げは、数量競争と異なり、直接相手の利益を奪うような戦略だからである。

ベルトラン・パラドックス

寡占市場でも、価格競争になると完全競争と同じような水準まで利益率が落ちてしまうことがあり、これをベルトラン・パラドックスと呼ぶ。

ベルトラン・パラドックスに陥らないためには、以下が重要である。
① 十分な差別化
② 参入障壁(例: 多額の初期投資が必要な事業など)

ただし、ビール市場などにおいて価格が一定でとどまる傾向にあるのは、このゲームが1回きりでないためである。

このゲームを無限に繰り返すという前提のもとで、自社の利益のために互いに合理的に意思決定をするとした場合、ベルトラン・パラドックスに陥らないためには、価格競争をしないという選択が合理的と判断されるためである。

価格競争におけるベルトラン・パラドックスで有名なものとして、日本では2000年前半の牛丼チェーンの値下げ競争がある(結果は各社が値下げ競争をやめ、段階的な値上げへと舵を切った)。一方海外でも多くの事例が存在する。

逐次ゲーム

逐次ゲームは、相手の意思決定を知った状態で意思決定を行うものである。

例. B社が先に意思決定をする場合のA社、B社の増産・現状維持の戦略

A社、B社がそれぞれ、増産・現状維持を選択した場合に得られる利益を示す。

A社\B社 現状維持 増産
現状維持 A社: 20、B社: 14 A社: 16、B社: 20
増産 A社: 16、B社: 10 A社: 18、B社: 12

同時ゲームの場合、A社・B社ともに増産を選ぶのがナッシュ均衡となる(A社は支配戦略がないが、B社に支配戦略があるため)。

では、B社が先に意思決定をする場合を考える。
B社にとって、A社とともに増産をするのは2番目に悪い結果と言える。そこで、自分たちがより利益を得られるシナリオにA社を誘導するために、先に現状維持を選択したことを公表するとする。
するとA社は現状維持を選択したほうが有益となるため、A社・B社ともに現状維持が選択される。

このように逐次ゲームでは、同時ゲームと異なる結果が合理的な意思決定の結果として現れることがある

もちろんこれは、同時ゲームと思われる状況を逐次ゲームへと変化させることで意図的に起こすことも可能である。例えば、自社に有利になるように先に公表する、といったことである。
ただし、この情報が信頼性に値することを相手に示す必要がある。例えば、事業投資を実施する、そのための大規模な借り入れを行うなどである。

フーデンバーグ=ティロールの分類法

最後に、一般的な戦略の指針として、フーデンバーグ=ティロールの分類法を紹介する。

弱気の戦略
(現状維持)
強気の戦略
(増産、値下げ)
戦略が代替的
(主に数量競争)
相手に強気の戦略を取られるので不利になる 自社に望ましい状況を生み出せる
戦略が補完的
(主に価格競争)
自社に望ましい状況を生み出せる 消耗戦になりがち

なお経済学において、代替的とはコーヒーと紅茶のような代替される関係にあることであり、コーヒーとクリームといった関係は補完的と呼ばれる。フーデンバーグ=ティロールの分類法は、戦略において、相手と逆の戦略をとるか、相手に追従するような戦略を取るほうがよいかが数量競争と価格競争によって異なることを示している。