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「ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る」の感想(2)

前回の続き。今回は第一章を読んでみたまとめと感想を書きます。

第一章 ノーベル賞記念講演 限定合理性の地図

  • 知覚表象
    • 感覚表象とも。人間が感じる様々な感覚が脳の連合野で分析的に統合されたのもの。
    • 例えば、「重い」という感覚は、皮膚への強い圧力と同時に、関節や筋肉への負荷、および重さに拮抗するための運動の結果をもとにしている。
    • 知覚表象は単なる対象の写像ではなく、これら対象に関連する様々な情報を複雑に情報処理した結果生じるもの。
    • 人間は知覚表象だけでは処理できない事柄は記憶表象に頼る。
    • 知覚表象だけでは処理できない例として、トランプの厚みがどれくらいかはすぐ分かるが、トランプ一組を並べたときの全面積はすぐには分からない、と言ったことが上げられる。
  • 知覚の特性
    1. 知覚は「変化」に集中し、「状態」を無視する。
      • プロスペクト理論の価値関数(ある参照点からの変化量とその変化量に対応する価値を表す関数) http://www.princeton.edu/~kahneman/docs/Publications/prospect_theory.pdf のFigure 3を参照。
        • 損失回避性:利得より損失に大きなウェートを持つこと。
          • 例えばおじいちゃんに「今年はお年玉を2万円あげる」と言われていたあとに1万円しかもらえなかった場合と知らないおじさんに1万円をもらった場合、効用としては同じ変化でも損失の方が大きなものとして感じられる。
        • 人間はマイナスの選択に直面したときはリスクを追及し、プラスの選択のときはリスクを回避する傾向がある。
    1. 足し算をすべきときに平均値を求めてしまう。
      • アンカリング(効果):数値や物事を判断・調整する際に与えられた初期値に人の思考が縛り付けられること。またそれに影響されること。
        • 例えば、「1×2×3×4×5×6×7×8」と「8×7×6×5×4×3×2×1」という問いを別の人に出し、5秒以内に答えるように求めると、同じ結果になるはずの問いであるにもかかわらず、前者を出された人の方がより大きな答えを言うことが実験で確認されている。これは5秒以内で暗算できる「8×7=56」と「1×2×3×4=24」にアンカリングされたためであると考えられる。
  • 直感的思考は基本表象に従って動作する。

感想

非常に直感と合致している話が多かったので、理解しやすいことも多かった。また、例示された話が非常に分かりやすかった。
人間がある情報を与えられたときに直感的に感じ取る事柄というのはロジカルではない、非常にバイアスのかかった形で現れやすいことが書かれていた。
例として一番印象に残ったのは、
『「リンダは31歳で独身、率直にものを言い、とても頭がいい。大学で哲学を専攻し、学生のときには差別と社会主義の問題に深い懸念を抱き、反核デモにも参加した」という場合において、「リンダは銀行の出納係であり、活発なフェミニストである」と「リンダは出納係である」という二つの問いに対して、回答者がそれぞれを個別に評価した場合、後者よりも前者の方が確率が高いと評価された。』というものです。
これは論理的には前者は「リンダは銀行の出納係であり、フェミニストである」ということと「リンダは銀行の出納係であり、フェミニストでない」ということが含まれているので、後者よりも高い確率のはずなのに、後者の「フェミニストである」という事柄によってバイアスがかかったと考えられるということでした。

ダニエル・カーネマン心理と経済を語る

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